ECONALK.
Politics

[米民主党の亀裂] シャピロ回顧録が暴く「踏み絵」と2028年への布石

AI News Team
[米民主党の亀裂] シャピロ回顧録が暴く「踏み絵」と2028年への布石
Aa

2026年1月、ペンシルベニア州知事ジョシュ・シャピロ氏が発表した回顧録『The Center Must Hold(中道は持ちこたえねばならない)』は、ワシントンの政界のみならず、同盟国である日本の外交筋にも静かな衝撃を与えている。その核心にあるのは、2024年の夏、カマラ・ハリス陣営による副大統領候補選定の最終局面で投げかけられたとされる一言だ。「あなたはイスラエルのために働くのか、それともアメリカのために働くのか」。

事実上の二重忠誠疑惑、すなわち「イスラエルのエージェントではないか」という問いが、党の公認候補選定という極めて公的なプロセスの中で、現職の州知事に対して向けられたという告発は、かつての政権与党内部における亀裂が、当時すでに修復不可能なレベルに達していたことを如実に物語っている。

「踏み絵」としての選考プロセス

当時、ハリス氏は中西部「ラストベルト」での票固めを急務としており、激戦州ペンシルベニアで高い支持率を誇るシャピロ氏は、数字上「論理的な最適解」と見られていた。しかし、党内左派、いわゆるプログレッシブ勢力からの反発は、選挙戦の命運を左右するほどに激化していた。ガザ情勢を巡る抗議デモが全米の大学キャンパスを席巻する中、ユダヤ系であり、イスラエルの自衛権を明確に支持していたシャピロ氏は、一部の活動家から激しい批判の対象となっていたのである。

回顧録によれば、選考過程での質問は、政策の整合性を問う通常の範疇を逸脱し、彼のアイデンティティそのものを政治的リスクとして計量する、ある種の「踏み絵」の様相を呈していたという。シャピロ氏は著書でこう問いかけている。「他の候補者が、自身の信仰や民族的背景を理由に、同盟国との関係についてこれほど執拗な『潔白証明』を求められただろうか」。

実際、最終的に副大統領候補に選ばれたティム・ワルズ氏(ミネソタ州知事)らに対し、同様の踏み絵が課された形跡は確認されていない。2024年当時、党内左派からの突き上げに苦慮していたハリス陣営が、激戦州を制する実利よりも、党内融和という「安心」を優先し、結果としてシャピロ氏を危険視した構図が浮かび上がる。

ハリス回顧録『107 Days』への反撃

この告発は、2025年9月にカマラ・ハリス前副大統領が出版した回顧録『107 Days』への明確な反証となっている。同書の中でハリス氏は、シャピロ氏を選ばなかった理由を「ビジョンの不一致」と「過度な野心」にあると描写し、彼が自身の権限拡大を要求したことで「チームプレイヤーとしての資質に疑念が生じた」と記していた。

しかし、シャピロ氏は今回の著作で、ハリス陣営の内部会議録や電子メールのやり取りを引用し、自身の排除が政策や野心の問題ではなく、党内左派勢力への「政治的配慮」によって決定されたと反論している。特に、選考最終段階において陣営スタッフが発したとされる「イスラエル・エージェント(Israel Agent)」という言葉を引用し、これを「明白な反ユダヤ主義的トロープ(比喩)」であり、党指導部がプログレッシブ勢力の圧力に屈して中道派の勝機を自ら放棄した証拠だと断じている。

2025年4月の放火事件とトランプからの警告

シャピロ氏が強調するのは、政治的レトリックが物理的な暴力へと転化する危険性である。回顧録では、2025年4月12日に発生したペンシルベニア州知事公邸への放火事件(火炎瓶投擲事件)についても詳細が語られている。「家族を避難させ、護身用の拳銃を手に取った瞬間、私は知事という公人ではなく、秩序が崩壊しつつある社会で家族を守ろうとする一人の父親だった」という記述は、彼が掲げる「安全保障」が市民生活の足元にあることを示唆している。

さらに興味深いのは、2024年の夏にドナルド・トランプ氏(現大統領)から受けたという電話の内容だ。トランプ氏はシャピロ氏に対し、「副大統領候補にはなるな」と忠告したという。「彼ら(民主党内の急進左派)は、君の出自を理由に君を破壊するだろう。君は彼らにとって『ユダヤ人すぎる』のだ」。

敵対者であるはずのトランプ氏が、皮肉にもシャピロ氏の置かれた状況を正確に予見していたというこのエピソードは、党内融和を掲げながら彼を切り捨てた当時の民主党執行部の矛盾を浮き彫りにする。シャピロ氏はこの事実を公表することで、「トランプの予言通りになった」というナラティブを構築し、現在の民主党主流派が抱える構造的な欠陥を指摘しているのである。

2028年への「ソフトローンチ」

トランプ政権による第二次「アメリカ・ファースト」政策が進行し、国際秩序が再編されつつある2026年において、シャピロ氏がこのタイミングで回顧録を出版した意図は極めて戦略的だ。それは、敗北を喫した2024年の民主党主流派、とりわけアイデンティティ政治に過度に傾倒し、中道層の離反を招いた左派勢力との明確な決別宣言に他ならない。

彼は自らを「党内の過激な純潔性テストによって排除された実務家」として再定義することで、中道派や無党派層に対し、「真に国益を優先できるリーダーは誰か」という問いを突きつけている。これは、来る2028年の大統領選を見据え、左傾化した党内力学を中道回帰(Centrist Reset)へと強制的に修正しようとする、冷徹な政治的計算に基づく事実上の「出馬宣言」と言えるだろう。

日本の政策立案者にとっても、民主党が今後、外交政策においてイデオロギーと現実路線のどちらに舵を切るかを見極める上で、この「シャピロの乱」は無視できないシグナルとなっている。