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[経済安全保障] トランプ政権「グリーンランド資源併合」の深層:不動産購入騒動から冷徹な独占戦略へ

AI News Team
[経済安全保障] トランプ政権「グリーンランド資源併合」の深層:不動産購入騒動から冷徹な独占戦略へ
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2019年8月、当時のドナルド・トランプ大統領が唐突に発した「グリーンランドを購入したい」という発言は、世界中で外交的なジョークとして消費されました。デンマークのフレデリクセン首相が即座に「不条理(Absurd)」と一蹴したことで、この騒動は一過性の喜劇として幕を閉じたかのように見えました。しかし、第2次トランプ政権が発足し、2026年1月を迎えた現在、ワシントンD.C.とヌーク(グリーンランドの首都)の間で進行している交渉の記録を紐解けば、当時の発言が決して単なる思いつきではなく、極めて冷徹な長期的戦略の端緒であったことが浮き彫りになります。

現在、ホワイトハウスが推進しているのは、領土そのものの「購入」という粗野な手法ではありません。それは、より洗練され、かつ回避困難な「排他的な資源アクセス権」の確立です。今月任命された「北極圏経済安全保障担当特使」の最初の任務は、グリーンランド自治政府に対し、米国企業によるレアアース(希土類)および重要鉱物開発への優先権を認める新たな協定の締結を迫ることでした。米国務省関係者が非公式に認めるように、これは実質的な「経済的併合」に他なりません。

特使が突きつけた「完全かつ無制限」の権利章典

2026年1月、雪に閉ざされたヌークでの協議において、米国側が提示した「北極圏における戦略的鉱物資源の安定供給に関する覚書」には、従来の採掘権契約とは一線を画す文言が並んでいました。それが、「完全かつ無制限のアクセス(Total, Unfettered Access)」という条項です。

この文言が意味するものは、単なる優先的な採掘権の付与にとどまりません。複数の外交筋や現地報道によると、米国側が要求しているのは、指定された戦略的鉱区における環境アセスメントの簡略化、および米国の国家安全保障を理由とした場合における、地元自治政府の許認可権限の凍結です。つまり、ワシントンが「安保上不可欠」と認定したプロジェクトにおいては、グリーンランドの環境規制や労働法よりも、米国の資源調達の論理が優先されるという、実質的な治外法権の要求です。

資源エネルギー庁の内部資料や専門家の分析を総合すると、この「無制限アクセス」は三つの層で構成されています。

  1. 独占的地位の保証: 探査から採掘、搬出に至るまでの全プロセスにおける米国企業の優位性確保。
  2. インフラの優先利用: 当該鉱区周辺の港湾・空港の米軍および米国政府関係者による優先利用権。
  3. 第三国企業の排除: 中国企業のみならず、「米国の安全保障基準を満たさない第三国企業」の排除権限。

米国が依存する重要鉱物の対外依存度とグリーンランドの埋蔵ポテンシャル (2025年推計)

この要求は、日本企業にとっても深刻な影響を及ぼします。三菱商事や住友商事など、日本の総合商社は長年にわたりグリーンランドでの資源探査に関心を寄せてきましたが、この「米国基準」が適用されれば、サプライチェーンの中にわずかでも中国製機器や資本が含まれているだけで、参入を拒否されるリスクが生じます。「完全なアクセス」とは、裏を返せば「完全な排除」の権限を米国が握ることを意味するのです。

レアアース要塞としてのグリーンランド

ワシントンがグリーンランドに固執する最大の理由は、その圧倒的な埋蔵量にあります。とりわけ南部クバネフェルド(Kvanefjeld)鉱床は、電気自動車(EV)の駆動モーターや風力発電、そして最新鋭兵器の誘導システムに不可欠なネオジムやジスプロシウムの世界最大級の未開発埋蔵地として知られています。米国地質調査所(USGS)のデータが示す通り、中国が世界のレアアース生産・精製能力の過半を握る現状において、グリーンランドは西側諸国が対抗しうる数少ない「現実的な解」なのです。

世界のレアアース埋蔵量推定 (出典: USGS 2025)

かつてグリーンランド自治政府は環境への懸念からウラン採掘を含むプロジェクトを凍結していましたが、トランプ政権はこれを「西側の安全保障に対する重大な怠慢」と位置づけ、開発再開に向けた圧力を強めています。これは単なる民間投資の促進ではなく、米国国際開発金融公社(DFC)などの政府系金融機関を総動員した「資源ナショナリズム2.0」の実践です。

「防衛」を対価に「主権」を削る2026年型同盟

この資源戦略の根底にあるのは、「防衛」を対価に「主権の一部」を差し出させるという、新しい同盟の方程式です。グリーンランド北部に位置する米軍ピトゥフィク宇宙軍基地(旧トゥーレ空軍基地)の戦略的価値を梃子(てこ)に、米国はインフラ投資の約束と引き換えに、重要鉱物区画に対する拒否権に近い権限を求めています。

現地で交渉に当たる日本の商社幹部、(仮名) 田中宏氏は、その変化を肌で感じています。「以前は環境規制や労働条件が交渉の主眼でしたが、現在は『米国の安全保障上の懸念』というカードが最初に切られます。中国資本の排除だけでなく、米国企業への優先権付与が、米軍による防衛コミットメント維持の条件であるかのように示唆されるのです」。

同盟国・日本への警告:米国製「資源の壁」と忠誠税

トランプ政権の資源政策は、日本企業に対して「二重のコスト」を突きつけています。愛知県の自動車部品メーカー幹部、(仮名) 佐藤健太氏によれば、第一のコストは明白な「価格差」です。北米やグリーンランドでの採掘・精錬コストは中国に比べて割高であり、米国主導のサプライチェーンを経由した場合、調達価格は従来比で30%から40%の上昇が見込まれます。

第二の、より深刻なコストは「忠誠税(Loyalty Tax)」とも呼ぶべき政治的コストです。トランプ政権は、重要鉱物の供給を外交カードとして利用する姿勢を隠していません。日本が米国の方針に完全に同調しなければ、優先的な資源供給リストから外されるリスクが常につきまといます。以下のデータは、地政学的な供給源の違いによる調達コストの乖離(デカップリング)が進行している現状を示しています。

重要鉱物(ネオジム)調達コスト指数の推移予測 (2024年=100)

ヌークからの反撃と日本の生存戦略

ワシントンの圧力に対し、グリーンランド現地では「環境主権」を掲げた抵抗が続いています。2021年のウラン採掘禁止法は依然として有効であり、漁業を主産業とする現地コミュニティは、放射性物質による海洋汚染を強く懸念しています。

グリーンランドの輸出産業構成比(2025年実績)

このような状況下、日本が取るべき道は「資源のサブスクリプション化」を受け入れることではありません。真の資源自立への覚悟を決める時です。具体的には、グローバルサウスとの連携による調達先の多角化、そして国内に眠る「都市鉱山(アーバン・マイン)」の戦略的活用です。

日本の主要鉱物輸入依存度と都市鉱山ポテンシャル (2025年推計)

トランプ政権が突きつけた「資源の囲い込み」という現実は、日本にとって過酷な試練ですが、同時に技術と知恵を武器にした自律的な資源外交へと転換する好機でもあります。「持たざる国」の生存戦略は、資源をただ掘り出すことではなく、資源の価値を最大化し、循環させるシステムを構築することにこそあるのです。