[韓国政治] 保守自壊の序章:韓東勲氏除名に見る尹政権「純化」路線の代償
![[韓国政治] 保守自壊の序章:韓東勲氏除名に見る尹政権「純化」路線の代償](/images/news/2026-01-30---za3vvo.png)
非常事態の与党:「除名」という最終手段
2026年1月下旬、ソウル汝矣島(ヨイド)の韓国与党「国民の力」党本部で下された決断は、単なる内部抗争の決着という枠を超え、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が求心力維持のために投じた極めてリスクの高い「劇薬」としての性質を帯びている。かつて政権の「皇太子」と目された韓東勲(ハン・ドンフン)前党代表の除名処分。深夜の倫理委員会で電撃的に決定されたこの措置は、手続きの正当性をめぐる議論を置き去りにしたまま、異例のスピードで遂行された。
米国でトランプ政権2期目が始動し、「アメリカ・ファースト」の波が東アジアの安保環境を激しく揺さぶる中、本来であれば結束を固めるべき保守陣営が自ら亀裂を深める姿は、日本の外交・安保当局や商社のリスク分析官にとって、韓国という隣国の「ガバナンス不全」を象徴する深刻な事態として映る。
今回の除名劇の背景には、尹大統領との関係修復が不可能になった「親尹(シンユン)」主流派による、次期大統領選を見据えた生存戦略がある。複数の韓国メディアの報道を総合すると、除名決定に至る会議はわずか3時間で終了し、韓氏側の弁明機会は事実上封殺されたという。ソウルを拠点に活動する政治アナリストの佐藤健太氏(仮名)は、「この強引な排除は、党内の異論を物理的に除去することで、大統領の任期後半におけるレームダック化を力ずくで阻止しようとする焦りの表れ」だと指摘する。

しかし、この手法は「国民の力」を支持してきた合理的な保守層、特に韓氏が象徴していたクリーンなイメージを支持する若年層の激しい反発を招いている。組織の純血を守るために多様性を切り捨てたとき、その組織は果たして強固になるのか、それとも単に脆い「氷の城」へと変貌するのか。その答えは、すでに数字として表れ始めている。
韓国保守支持層の離反傾向 (2026年1月調査 - 中央選挙管理委員会データ参照)
データが示す通り、次世代の保守を担う若年層の支持は12%まで急落しており、これは次期総選挙や大統領選における保守敗北の先行指標とも読める。深夜の除名決定という「強行」が、民主主義的な正当性を重んじる日本の外交パートナーとしての信頼をどこまで毀損させるのか、その影響は計り知れない。
親尹派の論理:なぜ今、排除が必要だったのか
龍山(大統領室)にとって、かつて「尹錫悦の分身」とまで呼ばれた韓氏の存在は、政権後半期の安定を脅かす最大の不確定要素へと変貌していた。2026年、トランプ米大統領による保護主義的な通商圧力や在韓米軍駐留経費負担(SMA)の再燃が現実味を帯びる中、大統領室が最も恐れたのは、外交交渉の足元をすくう「党内からの異論」であった。
親尹グループの中心人物である重鎮議員が漏らした「戦時下の司令塔は一つでなければならない」という言葉は、この強硬策が単なる感情的な対立ではなく、政権延命のための冷徹な権力工学に基づいていることを示唆している。亀裂の起点は2024年の総選挙敗北に遡るが、決定打となったのは、金建希(キム・ゴンヒ)夫人を巡る疑惑や医療改革に関して、韓氏が世論に迎合し大統領室と距離を置いた「差別化」戦略だった。これは龍山の目には「明白な裏切り」と映り、レームダック化を加速させる触媒として認識されたのである。
親尹派の計算は、韓氏を切り離しても、伝統的な保守層は最終的に「左派(共に民主党)の政権奪還阻止」という大義の下、大統領を中心に結集するというものだ。しかし、この賭けは1990年代のようなトップダウンが通用しない現代韓国政治において、致命的な時代錯誤となるリスクを孕んでいる。
過去の亡霊:「弾劾」前夜の既視感
永田町の政界関係者や霞が関の外交官の間で、ソウルから届く報告書に記されたある言葉が、不気味なリアリティを持って囁かれ始めている。「セヌリ党の悪夢」である。今回の事態は、2016年から2017年にかけて韓国保守を壊滅的な敗北へと追いやった、あの構造的自壊プロセスの再来を予感させる。
時計の針を戻せば、当時の朴槿恵(パク・クネ)大統領と劉承旼(ユ・スンミン)氏の対立が鮮明に浮かび上がる。「裏切りの政治」として排除された劉氏と、純化路線をひた走った親朴派。その結果生じた「遠心力」は、中道層や改革派保守の離反を招き、最終的に弾劾という破局へと繋がった。

現在の尹政権下で起きている事象は、この歴史の戯画的な反復に見える。ソウルの政治コンサルタント、金敏俊氏(仮名)は、この状況を「タマネギの皮むき」に例える。「芯だけを残そうとして皮をむき続ければ、最後には何も残らない。2016年の教訓は、多様性を排除した保守は危機に際して脆いということだった」。
この「既視感」が日本にとって重大な意味を持つのは、韓国の政局不安が対日政策に直結するためだ。尹政権が進めてきた日韓関係の劇的な改善も、国内政治基盤という「ダム」が決壊すれば、一瞬にして奔流に飲み込まれる危険性がある。
新党結成と「コリア・リスク」の再定義
韓氏の離脱は、保守陣営を不可逆的に分断する「新党結成」のトリガーとして機能し始めている。ソウルの外交筋やシンクタンクの分析によれば、韓氏を中心とする新勢力は、現政権の強硬な統治スタイルに疲弊した首都圏の現役世代や中道右派層を急速に吸収する可能性が高い。
この分裂がもたらす数理的な帰結は、与党にとって極めて悲観的だ。韓国の小選挙区制において保守票が二分されれば、最大野党「共に民主党」に絶対的な優位を献上することになる。世論調査機関の最新シミュレーション(2026年1月時点)では、野党候補が4割程度の得票で過半数の議席を確保する「独走状態」が予測されている。
保守分裂時における2026年地方選挙支持率シミュレーション(ソウル・首都圏)
日系総合商社で朝鮮半島リスクを担当する佐藤健太氏(仮名)は警鐘を鳴らす。「ソウルでの政治的流動性が高まる中、日本企業は投資判断において、現政権との合意が次期政権で覆される『政治的不連続性』を最大のリスクとして再定義せざるを得ない」。トランプ大統領の圧力に対し、日米韓の連携で対抗しようとしていた日本にとって、韓国の政治的空白は安全保障上の直接的なリスクとなる。
東京の視線は今、ソウルの政局が「管理可能な混乱」に留まるか、それとも「日韓関係の構造的崩壊」への序章となるか、固唾を呑んで見守っている。