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[韓国政治] 韓東勲氏除名と保守分裂の衝撃:2026年北東アジア情勢への波紋

AI News Team
[韓国政治] 韓東勲氏除名と保守分裂の衝撃:2026年北東アジア情勢への波紋
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追放された「皇太子」の反撃

2026年1月29日、ソウル・汝矣島(ヨイド)。記録的な寒波に見舞われた韓国の首都は、政治的な緊張感でさらに凍てついていました。韓国与党「国民の力」の党舎前には、数多くの支持者と報道陣が詰めかけ、異様な熱気に包まれていました。かつて尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権の「皇太子」とまで称され、次期大統領候補の最右翼と目されていた韓東勲(ハン・ドンフン)氏が、党倫理委員会による除名処分を受けた直後に姿を現した瞬間です。

紺色のスーツに身を包んだ韓氏は、集まった群衆を冷静に見渡した後、静かだが力強い口調で語り始めました。「私は折れない。国民のために、すべきことがある限り、私は決して諦めない。待っていてほしい」。その言葉は、処分に対する不服の弁というよりも、既存の保守主流派に対する事実上の宣戦布告として響きました。彼が発した「待っていてほしい」というフレーズは、単なる感情的な吐露ではなく、明確な政治的意志を込めた次なるアクションへの予告と解釈されています。

党執行部による今回の除名決定は、表向きは党内規律の撹乱を理由としています。しかし、永田町に相当する汝矣島の政治関係者の間では、尹大統領との確執が決定的になった結果であるとの見方が支配的です。2024年の総選挙での苦戦以降、党の刷新を掲げて独自色を強め、時には政権に対しても是々非々の態度を貫こうとした韓氏と、任期後半に向けて求心力を維持したい大統領府(龍山)との溝は、2026年に入り修復不可能なレベルに達していました。

ソウル市内の大学で政治学を専攻する学生は、「保守層の若者の間では、古い政治に固執する党主流派への失望感が広がっている。韓氏の除名は、むしろ彼を『改革の殉教者』に変え、支持を強固にする可能性がある」と分析します。実際、現場には韓氏の名前を連呼する支持者の姿が多く見られ、党の決定に対する抗議の声も上がっていました。

ある韓国政治評論家は、「これは韓東勲という政治家の終わりの始まりではなく、韓国保守分裂の幕開けだ」と警鐘を鳴らします。韓氏の「帰還」宣言は、新党結成や、次期大統領選を見据えた独自の政治勢力化を示唆するものと受け止められているからです。これまで一枚岩であることを強みとしてきた韓国の保守陣営が、親尹(親大統領)派と非尹(韓東勲)派に二分されるシナリオが現実味を帯びてきました。

「家族による世論操作」という名分と実情

国民の力(与党)の懲戒委員会が下した韓東勲氏に対する「除名」決定は、韓国政界に衝撃を与えました。その直接的なトリガーとされたのは、いわゆる「党員掲示板における家族名義の世論操作疑惑」です。しかし、この処分が形式的な規定違反に対する懲罰の枠を超え、高度な政治的計算に基づく「排除」であるとの見方が、専門家の間で支配的となっています。

事の発端は、党の公式掲示板において、尹錫悦大統領夫妻を激しく批判し、一方で韓氏を称賛する投稿が多数発見されたことにあります。これらの投稿者の名義が、韓氏の妻や義父など家族の名前と一致していたという疑惑です。党務監査委員会はこれを「組織的な世論操作」と認定し、党の結束を乱し、大統領の権威を傷つけたとして、党規約上最も重い「除名」処分を強行しました。

しかし、法的な観点や過去の慣例に照らすと、この決定には疑問符がつきます。通常、名誉毀損や党への背任行為であっても、本人の直接的な関与が明確に立証されない段階での除名は極めて異例です。ソウル市内の法律事務所に勤務する弁護士は、「家族が投稿したという状況証拠だけで、次期大統領候補として世論調査トップを走る党代表経験者を政治的に抹殺する決定は、法治主義を掲げる保守政党として自己矛盾に陥っているように見える」と指摘します。

実情を見れば、この「世論操作疑惑」は、韓氏を党から追い出すための格好の「名分」として利用された側面が強いと言えます。2024年の総選挙以降、韓氏は大統領室との差別化を図り、国民の目線に立った刷新を訴えてきました。親尹(親尹錫悦)系議員らにとって、韓氏はもはや政権のパートナーではなく、大統領のレームダック化を加速させる「内部の脅威」と映っていたのです。

龍山との確執:権力闘争の深層

かつて「尹錫悦大統領の分身」とまで呼ばれた韓東勲氏が、なぜ「裏切り者」の烙印を押され、与党からの除名という極端な結末を迎えたのか。その深層には、単なる政策の不一致を超えた、韓国保守政治特有の「情」と「理」の衝突、そして検察組織由来の厳格な上下関係の亀裂が存在します。

龍山(大統領室)と韓氏の関係が決定的破綻に向かい始めた起点は、2024年の総選挙敗北後の党運営にあると見るのが、ソウルの政界関係者の一致した見解です。当時、非常対策委員長として選挙戦を指揮した韓氏は、大統領室の意向とは距離を置き、中道層への訴求を試みました。特に、金建希(キム・ゴンヒ)夫人を巡る疑惑やリスク管理において、韓氏が「国民の目線」を強調し、大統領室に対して公然と変化を求めたことは、垂直的な忠誠を重視する現政権中枢にとって、看過できない「越権行為」と映ったようです。

ある韓国与党の古参幹部は、この状況を日本の派閥政治になぞらえてこう解説します。「日本の自民党における派閥の領袖と若手の対立とは質が違う。これは検察の先輩・後輩という、絶対的なヒエラルキーの中で起きた『抗命』と受け止められたのだ」。検察総長と腹心の部下という関係性からスタートした両者の絆は、政治の場において「大統領と党代表」という対等に近い緊張関係へと移行することに失敗したと言えます。

決定的な引き金となったのは、直近の補欠選挙における公認権争いと、それに続く党内監査の強行であったとされます。龍山側はこれを「党の私物化」と断じ、韓氏は「党内民主主義の確立」と主張しました。この認識の乖離は、もはや修復不可能なレベルに達していたのです。結果として下された除名処分は、政権側が韓氏をパートナーではなく、排除すべき「リスク要因」として最終認定したことを意味します。

しかし、この強硬策は「諸刃の剣」となりつつあります。韓氏が「私は折れない」と徹底抗戦を宣言したことで、彼を支持する党員や無党派層、そして伝統的な保守層の一部までもが動揺しているからです。韓国ギャラップの最新調査(2026年1月)によれば、保守支持層の約40%が韓氏の排除に否定的反応を示しているとされます。これは、龍山が意図した「保守の結束」とは真逆の、「保守の核分裂」を招く危険性を孕んでいます。

野に下った実力者が描くシナリオと野党の漁夫の利

韓東勲氏が放った「私は折れない。国民と共に戻ってくる」という言葉は、単なる政治的修辞を超え、韓国保守陣営における「内戦」の号砲として受け止められています。今回の事態は、単なる一政治家の進退問題ではなく、2026年のトランプ2.0政権始動に伴う国際秩序の激変期において、韓国保守がどのような「顔」を持つべきかというアイデンティティ危機の露呈に他なりません。

韓氏が描く再起のシナリオとして最も有力視されているのが、既成政党に頼らない「合理的保守」を掲げた新党結成、あるいは広範な政治連帯の構築です。現在の与党支持層の間では、現政権の対米・対中外交の成果に対する評価が分かれています。「今の保守は過去の論理に縛られすぎている。トランプ政権による関税圧力や半導体供給網の再編に、より柔軟かつ実利的に対応できる新しいリーダーシップが必要だ」という声も聞かれます。

専門家らのコンセンサスによれば、韓氏の戦略は「外からの包囲網」にあります。党内に残る自身のシンパと連携しつつ、現政権の失策や支持率低下を待って「救世主」として帰還する機会を窺うというものです。

しかし、韓国政治における「保守分裂」は、選挙制度の構造的な力学により、野党に決定的な勝利をもたらす「自動装置」として機能する危険性を孕んでいます。韓国の国会議員選挙における小選挙区制は、勝者総取りの過酷なゲームであり、わずかな票の分散が致命傷となるからです。

保守分裂時の首都圏激戦区得票シミュレーション(予測)

仮に、首都圏の激戦区において保守票が「親尹(ユン大統領派)」と「親韓(韓東勲派)」に割れた場合、強固な組織票を持つ民主党候補が、漁夫の利を得て圧勝するシナリオが現実味を帯びます。李在明(イ・ジェミョン)代表を中心とする野党陣営にとって、韓氏は与党を内部から崩壊させる「トロイの木馬」であり、その政治生命が延びれば延びるほど、保守陣営の傷は深くなるという冷徹な計算が働いています。

日本への波及:揺らぐパートナーシップ

永田町の外交筋に走った衝撃は、単なる隣国の政争に対する懸念を超え、東アジアの安全保障構造そのものが抱える脆弱性を浮き彫りにしました。韓国与党による韓氏の除名は、日本政府が過去数年間、尹錫悦政権との間で積み上げてきた「未来志向」のパートナーシップが、再び根本から揺らぎかねないという冷徹な現実を突きつけています。

外務省関係者が「対話の相手が霧散しかねない」と懸念するように、日本側が最も恐れるのは、韓国政治におけるカウンターパートの喪失です。2025年後半から続く尹政権の支持率低迷に加え、今回の保守分裂劇は、政権のレームダック化を決定的なものにする可能性があります。特に、2026年はトランプ米大統領(第2次政権)が同盟国に対して防衛費負担の増額や独自の役割拡大を強く迫る年でもあります。日米韓の連携がこれまで以上に求められる局面で、その一角であるソウルが政治空白に陥るリスクは、日本の安全保障政策にとって致命的なアキレス腱となり得ます。

経済界における懸念も深刻化しています。半導体素材や製造装置を扱う専門商社関係者は、「韓国側の意思決定スピードが明らかに鈍化している」と現場の肌感覚を語ります。次世代通信規格やAI半導体の共同開発プロジェクトにおいて、韓国パートナー企業が政府の支援策や規制緩和の行方を読み切れず、投資判断を先送りするケースが増えているといいます。「ビジネスは予見可能性が命です。しかし、保守陣営の分裂で次の政権がどうなるか、あるいは現政権の政策が継続されるかさえ不透明になり、長期的なコミットメントが難しくなっています」。

日韓関係の先行きに対する日本企業の意識調査 (2026年1月)

結局のところ、韓氏の「折れない」という宣言は、韓国国内の権力闘争の激化を意味すると同時に、日本にとっては「安定した隣人」の不在が長期化することへの警告でもあります。トランプ政権という外部からの圧力と、韓国政治の内部崩壊という二重の波にさらされる中で、日本外交はこれまでにない繊細な舵取りを迫られています。