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[韓国情勢] 李在明政権の「犯罪撲滅」キャンペーン:トランプ関税とポピュリズムの政治力学

AI News Team
[韓国情勢] 李在明政権の「犯罪撲滅」キャンペーン:トランプ関税とポピュリズムの政治力学
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「身の破滅」という警告:プノンペンからの帰還

仁川国際空港の到着ロビーは、異様な緊張感に包まれていた。1月下旬、カンボジアのプノンペンから到着したチャーター機から降り立ったのは、136名にも及ぶ組織犯罪の容疑者たちである。手錠をかけられ、青いパーカーで顔を覆った彼らが警察の護送バスへと連行される様子は、主要テレビ局によって全国に生中継された。これは単なる犯罪者の送還ではない。李在明(イ・ジェミョン)政権が演出した、国家権力の劇的なショーケースであった。

大統領のメッセージは、その映像以上に強烈かつ異例なものであった。「国民の生命と財産を脅かす者には、必ず『身の破滅』が訪れることを知らしめる」。大統領府で行われた治安関係閣僚会議の席上、李大統領が発したこの言葉は、法治国家のリーダーとしては極めて感情的かつ激越なトーンを含んでいた。「空言ではない」と付け加えられたその警告は、犯罪組織への宣戦布告であると同時に、揺らぐ国内支持層に向けた強力なアピールでもあった。

この大規模送還作戦は、韓国警察庁とカンボジア当局との数ヶ月にわたる水面下の交渉の成果である。しかし、そのタイミングが「トランプ2.0」政権による対韓関税圧力の高まりと、それに伴う国内製造業の悲鳴がピークに達した時期と重なったことは、決して偶然とは言い難い。サムスンやヒョンデといった主要輸出企業が米国の保護主義的政策への対応に苦慮し、経済的な閉塞感が漂う中、政府は「目に見える成果」を渇望していた。

外交筋によれば、今回の送還はカンボジア政府に対する多額のODA(政府開発援助)やインフラ支援とのバーター取引の側面も否定できないという。それでも、国民の視覚に直接訴えかける「悪の掃討」は、複雑な経済指標の説明よりも遥かに即効性のある政治的鎮痛剤となる。野党側からは「ポピュリズムによる治安の政治利用」との批判も上がっているが、SNS上では「強いリーダーシップ」を称賛する声が拡散しており、政権の狙いは一定の成功を収めているように見える。

しかし、ソウルのシンクタンク関係者は冷静な分析を加える。「犯罪者を捕まえることは政府の義務だが、それを『身の破滅』という言葉で煽ることは、国家の役割を『管理』から『制裁』へと変質させる危険性を孕んでいる」。トランプ大統領の再選により世界的に「自国第一主義」と「強い指導者」が共鳴し合う2026年の潮流の中で、韓国もまた、法の支配と大衆迎合の境界線上で危ういバランスを保とうとしている。

国境を越える罠:トランスナショナル犯罪の現実

ソウル市内のカフェで、スマートフォンの画面を虚ろな目で見つめる人々が増えている。彼らが見ているのは、SNSのタイムラインではなく、消え去った老後の資金や、架空の投資口座の残高「ゼロ」の文字だ。韓国社会を蝕む「トランスナショナル犯罪(国境を越える犯罪)」は、もはや単なる治安問題の枠を超え、国家の経済基盤を揺るがす安全保障上の脅威へと変貌を遂げている。

かつて主流だった「オレオレ詐欺」のような単純なボイスフィッシングは、2026年の現在、生成AIと暗号資産を組み合わせた高度な金融犯罪へと進化した。犯行グループの拠点は韓国内にはない。カンボジアのシアヌークビルやベトナムのホーチミン、フィリピンのクラークといった東南アジアの経済特区に「詐欺工場」を構え、そこから韓国の通信インフラを遠隔操作しているのだ。彼らはトランプ政権下の米ドル高と地政学的な不安を逆手に取り、「安全資産への退避」や「AI関連株への特別投資」を謳って中間層の資産を根こそぎ奪い去る。

韓国における特殊詐欺・サイバー金融犯罪の被害額推移(推計)

サイバーセキュリティ企業で東アジア地域の犯罪トレンドを分析する高橋健一氏(仮名)は、この手口の巧妙さを次のように指摘する。「犯行グループは、標的の声をAIで複製し、家族になりすますだけでなく、実在する銀行のアプリそっくりの偽装インターフェースまで用意します。韓国は世界最高水準のデジタル普及率を誇りますが、皮肉なことに、その利便性が犯罪者にとっての『バックドア』となっているのです」。

このような状況下で、李在明政権が打ち出した「犯罪との戦争」は、単なるポピュリズム以上の説得力を持ちうる。136人の容疑者を一挙にチャーター機で強制送還するという視覚的なインパクトは、「国家が国民の財産を守っている」という強力なメッセージとなるからだ。

ソウルの憂鬱:トランプ関税ショックの静かなる浸透

ソウルの官邸が「犯罪との戦争」を宣言し、華々しく成果を宣伝する裏側で、韓国経済の心臓部である輸出セクターには、かつてない静寂と恐怖が広がっている。市場関係者の間では、政権の強硬姿勢がドナルド・トランプ第2次政権による「普遍的基本関税」という巨大な外圧から国民の目を逸らすための「政治的迷彩」ではないかという疑念が深まっている。

2026年に入り、トランプ政権が掲げる「アメリカ・ファースト」の矛先が対米貿易黒字国である韓国に明確に向けられるなか、対米輸出依存度の高い自動車および半導体産業は、事実上の非常事態に陥っている。韓国銀行(韓銀)が発表した2026年第1四半期の経済見通し報告書によれば、対米輸出の伸び率は前年同期比で大幅な鈍化を記録した。

仁川広域市の南洞産業団地で、電気自動車(EV)向け部品を供給する中小企業を経営する金成鎮氏(仮名)は、現状を次のように吐露する。「大統領がテレビで犯罪撲滅を叫んでいる間、私たちの工場ではアメリカ側からの発注キャンセル通知が積み上がっています。関税コストをどちらが負担するかで協議が決裂し、ラインの一部を止めるしかありません。政府は犯罪者を捕まえることには熱心ですが、私たちの倒産を防ぐ具体的な貿易交渉のカードは示してくれないのです」。

野党や経済界の一部からは、政権が掲げる「大同社会(共に生きる社会)」の理念が、外圧に対する盾としては機能せず、むしろ国内の「敵」を作り出すことで求心力を維持する内向きのポピュリズムに変質しているとの批判が噴出している。136人の容疑者送還という法執行の成果を否定する者はいないものの、それが国家の生存戦略である経済外交の不作為を覆い隠すための煙幕であるならば、韓国経済が直面する「トランプの冬」は予想以上に長く、過酷なものになるだろう。

支持率の錬金術:ポピュリズムとしての治安対策

李在明大統領がフィリピン拠点の犯罪組織に対する大規模な掃討作戦の成果として強調した「136人の強制送還」は、数字以上の政治的含意を帯びている。これは、トランプ第2次政権による保護主義的な通商圧力と、それに伴う国内経済の閉塞感という「制御不能な外部要因」から、国民の目を「制御可能な内部の敵」へと転換させるための高度な政治的アクロバットである。

この手法は、韓国政治史において決して新しいものではない。過去の政権においても「犯罪との戦争」は、社会混乱や経済鈍化に対する国民の不安を吸収し、求心力を維持するための強力なカードとして機能してきた。現在の李政権が直面している状況は、過去の危機的局面と酷似している。

経済不安指数と政権支持率の相関(2025-2026)

専門家は、このポピュリズム的な治安対策が諸刃の剣であると指摘する。ソウル大学校政治外交学部の教授(匿名)は、「『犯罪者には人権がない』というような大統領のレトリックは、一時的なカタルシスを大衆に与えるが、法治国家としての成熟度を国際社会に疑わせるリスクがある」と警鐘を鳴らす。強硬な取り締まりは「見せしめ」の効果を持つ一方で、根本的な社会不安の原因である経済格差や雇用のミスマッチといった構造的な問題解決を先送りさせる副作用も伴う。

さらに、この戦略には賞味期限がある。136人の送還というイベントの熱狂が冷めた後、国民は再び冷徹な経済指標と向き合うことになるからだ。トランプ政権の要求がさらにエスカレートし、韓国企業が具体的な損害を被り始めたとき、「犯罪撲滅」というナラティブだけで政権の求心力を維持できるかは不透明だ。