[米韓交渉決裂] トランプ2.0の非情な現実:同盟より国益、日本に迫る『明日の交渉』
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凍り付いた握手:ワシントンが示した新時代の秩序
2026年1月、記録的な寒波に襲われたワシントンD.C.の空気は、米韓関係の冷え込みを象徴していた。米国通商代表部(USTR)の重厚な扉の向こうで、韓国の金正寛(キム・ジョングァン)通商交渉本部長と、ドナルド・トランプ大統領の懐刀として知られるロバート・ルトニク代表がテーブルに着いた。議題は、鉄鋼、自動車、半導体という韓国経済の根幹をなす品目への追加関税。しかし、交渉は実質的な議論に入る前に、冷徹な「決裂」という結末を迎えた。
「これは交渉ではなく、最後通牒だった」。ある交渉参加者が匿名を条件に語った。米側は関税撤廃の条件として、韓国国内の労働市場の完全開放やデータ主権に関する規制の大幅緩和など、到底受け入れがたい要求を一方的に提示したという。金本部長率いる韓国代表団は、同盟国としての数十年の協力関係と、サプライチェーンにおける韓国の重要な役割を訴えたが、その声は「アメリカ・ファースト」の壁に虚しく響いた。かつて「血盟」とまで呼ばれた関係性は、パーセンテージで測られる取引対象へと変質したのだ。
このワシントンでの一方的な通告は、単なる二国間の通商問題ではない。トランプ政権第二期が、従来の安全保障を基盤とした同盟関係を、純粋な経済的損得勘定で再定義している現実を世界に突きつけた。ルトニク代表の揺るぎない態度は、友好国でさえ容赦ないという明確なメッセージであり、伝統的な同盟の価値が根本から問い直される時代の幕開けを象徴していた。

『アメリカ・ファースト』の刃:同盟国を襲う保護主義の津波
今回の交渉決裂の根源は、2026年の米国がもはや「自由貿易の旗手」ではないという現実にある。トランプ政権が最優先するのは、ラストベルト(錆びついた工業地帯)の雇用回復と、対中競争を念頭に置いた国内製造業の徹底的な保護だ。その手段として、同盟国であるか否かを問わず、全ての貿易相手国に容赦ない圧力をかける。ブルッキングス研究所の報告書が「現政権の通商政策は、予測可能性や国際協調よりも、国内の政治的利益を優先する『取引の芸術』の実践である」と分析するように、かつてバイデン前政権が強調した「同盟国との連携」という言葉は、政策決定の場から消え去った。
この米国の姿勢は、韓国の主力産業に壊滅的な影響を与えかねない。韓国産業通商資源部の暫定データによれば、対米半導体輸出は関税発動の観測が強まった昨年からすでに減速している。さらに、サムスン電子やSKハイニックスがテキサスやアリゾナで進める巨大工場建設計画そのものが、「米国で製造するか、高関税を受け入れるか」という圧力のカードとして使われている。長年築き上げてきたグローバルなサプライチェーン戦略の根本的な見直しを迫られているのだ。
自動車業界も同様だ。現代自動車と起亜自動車は、米国市場での価格競争力を直接的に削がれることになる。内部試算では、関税が完全に適用された場合、年間で数兆ウォン規模の営業利益が消失する可能性が指摘されている。電気自動車(EV)への移行という構造転換の只中にある企業にとって、これは致命傷となり得る。
対岸の火事ではない:日本が直面する『明日の交渉』
韓国に向けられた関税の矛先を「対岸の火事」と見ることは、あまりに危険な賭けだ。ホワイトハウスが問題視するのは安全保障上の友好関係ではなく、純然たる「数字」――米国の富を吸い上げる貿易収支の赤字幅である。この基準に照らせば、日本が韓国よりも安全である保証はどこにもない。
最大の根拠は、依然として高水準にある日本の対米貿易黒字だ。米商務省のデータに基づけば、2025年の日本の対米黒字は、自動車および自動車部品を主因として、韓国のそれを上回る規模で推移している。さらに、日米の金融政策の違いから生じる円安基調は、トランプ政権内の保護主義者たちの目に「意図的な通貨安誘導」と映り、格好の攻撃材料を与えている。
以下のグラフは、米国にとっての「問題」がどこにあるかを冷徹に示している。韓国の黒字拡大が今回の引き金となったが、日本の黒字規模はそれを恒常的に上回っており、いつ火が付いてもおかしくない。
米国の対日・対韓貿易赤字の推移 (2023-2025年) 出典: 米国商務省
この右肩上がりのトレンドは、「日本が米国の雇用を奪っている」という政治的ナラティブの動かぬ証拠として利用されうる。ワシントンで起きた韓国の悲劇は、日本に対する最終警告であり、来るべき「明日の交渉」の予行演習と捉えるべきだ。

岐路に立つ日本の針路:脱・ワシントン依存と多角化戦略
ワシントンで突きつけられた厳しい現実は、逆説的にもアジア域内での経済連携強化へと各国を向かわせている。米国への過度な依存がもたらすリスクを分散し、サプライチェーンを多元化するため、韓国をはじめとするアジア諸国が地域的な包括的経済連携(RCEP)や環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)といった多国間枠組みの重要性を再認識しているのだ。
この事態は、日本にとって自国の経済安全保障戦略の再構築を迫る喫緊の課題である。強固な日米同盟を基軸とする従来の方程式が、もはや絶対ではないことは明らかだ。経済は国益を最大化するための「武器」として利用される時代へと完全に移行したのである。
今後、日本が直面するであろう米国との交渉において、韓国の事例は重要な教訓となる。米国が同盟を理由に経済的配慮をすることはないと想定し、より多角的で強靭な経済的パートナーシップを構築する必要がある。欧州連合(EU)や東南アジア諸国連合(ASEAN)との連携強化、そしてCPTPPの枠組み拡大は、米国の保護主義に対する有効なヘッジとなり得る。経済的な分断が安全保障協力の亀裂へと発展するリスクを直視し、より自律的な戦略を描くこと。それが、ワシントンから突きつけられた、この時代の新たな要請なのである。